酒田「久村の酒場」 酒・肴・人。心を癒やす庄内の風土に触れるひととき。


酒田は山形県第三の街です。同じ庄内地方で人口13万人の街、鶴岡とは20キロほどしか離れていなく、両方の街は一体化して庄内の中心地を担っています。内陸にある鶴岡は庄内藩の城下町。かたや酒田は北前船交易で栄えた商業の町と、江戸時代の頃から双方補完の関係にあり、その名残は今に続いています。

庄内地方は米所であり、酒造りも盛んに行われていたことから、酒業に関連した深い歴史があります。今回目指す店は、なんと1867年の創業という老舗です。

 

米と北前船が育んだ街、酒田を目指してJR羽越本線の旅。ローカル列車がゴトゴトと走る一方、酒田と新潟は新型車両の特急いなほ号が結んでいて、鉄路でもアクセスしやすい場所です。お酒を飲むのですから、広くゆったりとした鉄道の旅がちょうどいい。

 

酒田駅に着きました。目まぐるしく変わる日本海側の天候。晴れたと思ったらいきなりミゾレになりました。この厳しい環境がお酒を美味しくするのでしょう。

 

飲む前に軽く散策を。酒田の名所、米所を象徴する山居倉庫へ。1893年(明治26年)に酒田米穀取引所の倉庫として建てられた土蔵造りの建物です。現役の施設で、いまは「つや姫」など地元のお米を保管しているそうです。一部の棟は観光向けに開放されているほか、倉庫裏の樹齢150年以上と言われるケヤキ並木が、幻想的な雰囲気を醸し出しています。

 

さて、日が暮れましたので目指す酒場へ。

 

慶応3年創業の久村酒店が、昭和36年に居酒屋を併設してはじまった「久村の酒場」。広義で言えば酒屋の直営で「角打ち」ですが、すっかり酒場として濃厚な味になっています。

広い平屋の建物にぼんやり灯る赤ちょうちん。この光景に惹かれないノンベエはいないでしょう。

 

入るとガラスケースがそのままカウンターとして使われているコの字が配置され、その奥には小上がり、さらにその先には宴会座敷という広い造り。ただ、やはりここは魅惑のガラスケースのカウンターが特等席でしょう。

 

周囲のお客さんに軽く会釈をしつつ、庄内弁が素敵な女将さんにビール(キリンラガー大びん490円)を注文。あわせて、今日のおつまみをカウンターの下を百貨店の宝石売り場を眺めるかのごとく、じっくり品定め。

 

港町ですから、ここはやはり刺身といきたいところ。イカ刺し(700円位・時価)をもらって、では乾杯!

 

酒田のスルメイカの漁獲量は全国トップレベル。お隣の常連さんは漁師さんで、まさにイカ釣り漁船が職場という方。一度漁に出れば、2週間からときには一ヶ月以上もの期間、沖合いで操業するそうです。瞬間冷凍の技術を持ち、質のよい刺身が特長とのこと。俺たちのイカはイカしている、あ、はい。

甘さと磯の風味が心地よいですね。塩辛で初孫をくいっと…これもたまりません。

 

酒屋に併設されている居酒屋ですから、お酒はそうとうな充実ぶり。楯野川、上喜元、初孫と酒田の酒が揃い、普通酒から限定純米吟醸まで縦方向の飲み比べも可能です。

 

カウンターの脇には燗つけ器があり、冷え込む夜の緊張を解すように優しい湯気をたて、お酒を温めています。初孫金印(270円)の燗酒はそのままコップに注がれます。ふんわり米の香りに包まれて、イカの旨味と優しく調和。土地の酒に土地の肴をあわせる幸せを噛み締めて。

 

沖ぎすのすり身汁(370円)、手作り餃子(430円)、がさえび唐揚げ(季節商品)あたりが人気のよう。お向かいのお父さんは若〆のしめ鯖(700円位・時価)と楯野川で幸せそうに舌鼓をうたれています。

悩むところですが、今回は女将さんのイチオシから、長芋明太子チーズ焼きを注文。これが実に美味。ご存知の方も多いと思いますが、日本酒とチーズの高相性。長芋のサクサク感と明太子のコクが加われば、これはもう最高の酒の肴というわけです。

 

「こりゃたまらん」という顔をしていたら、女将さんが上喜元の限定品「翁」をもってきてくれました。成分未発表の謎めいたお酒ですが、コストパフォーマンス抜群の一杯。上喜元ならではのふくよかな味に加え、香り高いのも特長です。グラス売り500円前後で、こんな特殊なお酒がばんばん揃っているのが「久村の酒場」です。

 

酒田の街を代表するような店で、地元で働く人たちが集う場所。お酒に関連したお仕事をされている人もいて、酒話に花が咲きます。酒田の酒蔵「麓井酒造」の圓(まどか)生酛純米生原酒が素晴らしいと推薦され、一杯いただくことに。

 

コクがあってキレのよい、そんな矛盾とも言える味が不思議と調和したお酒です。辛口なのだけど、ピリピリするものでもなく、食中酒に向いた味わい。

 

美味しいおつまみと、歴史のつまった土地のお酒をいただき、さらにはカウンターに集う地元の人達との笑いの絶えない酒場話で盛り上がり、すっかりいい気分。〆には生樽のキリンラガー(490円)をぐっと飲んで、クールダウン。

 

食事やお酒が美味しいのはもちろん重要ですが、心をあったかくしてくれる地元の人との交流こそが酒場で最大の魅力です。久村の酒場で旅情に浸り、風土に癒やされてみませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

久村の酒場
0234-24-1935
山形県酒田市寿町1-41
17:30~21:00(日定休)
予算2,500円



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