倉敷「金平」歴史と風情と素敵な肴。よき街には良き酒場がある。


倉敷は岡山駅からJR山陽本線でわずか15分の移動ながら、街の雰囲気はがらりと異なります。岡山は岡山藩池田家の城下・武家の街、変わって倉敷は商都の風情です。

海運の拠点だった倉敷は徳川幕府の直轄「天領」でした。現在でも独特な雰囲気があり、観光地の美観地区だけでなく、繁華街にも岡山市中心部に引っ張られない独立した賑わいが感じられます。

歴史ある街には名酒場あり。今回は創業60余年の老舗「金平」をご紹介します。

 

倉敷駅の乗車人員は一日2万人ほど。駅に集まる人が多ければ、駅前の酒場も栄えます。近接して中国地方でお馴染みの百貨店「天満屋」もあります。

駅前ロータリーから路地に入ると飲み屋街になりますが、せっかくですから美観地区へ足を伸ばしてみましょう。歩いて10分ほど。

 

中国地方と大阪や江戸を繋ぐ海運の起点だった倉敷は、米や酒、塩に味噌、そして山や海の幸が集められました。当時の蔵や運河を眺めて歩けば、心もどこか穏やかな気分に。

 

なまこ目地瓦張の蔵を写す倉敷川の水面。向山に夕日があたり、のどかで落ち着いた景観です。町家のカフェや蔵を使った食事処、倉敷ガラスをつかった工芸品のお土産なども並び、上品で大人の可愛さを楽しめます。ですが、そろそろお酒が飲みたいので駅前の飲み屋街へ戻りましょう。

 

元町通から一本はずれた倉敷一番街。一間ほどの道幅はもちろん、入り口の看板も申し分ない味わい。旅先でこういう道を見つけたら入らずにはいられません。

 

「酒亭金平」は倉敷一番街のなかでも一番の歴史がある酒場。17時の口開けと同時に、近隣のご隠居や親子二代・三代で常連という主たちであっという間に満席になります。

 

ぴしっとした美しい店構え。ほのかな焼鳥の香りに誘われます。

 

厨房に向いたL字のカウンターに、背もたれの低い小さな椅子がお行儀よく並び、座るノンベエも行儀よく。歴史を感じる店内でも、手入れが行き届いていて清潔感があります。

荷物を後ろのカウンターに置いて、着席と同時にお酒をお願いします。お酒は岡山は浅口市寄島町の酒蔵「嘉美心」一本。ビールはアサヒ。

 

まずは小瓶を。小瓶のスーパードライは感覚的に好きでして、トトトと注いで思わずにんまり。では乾杯。

 

突き出し(340円)は必ずお豆腐で、表面にカラシを塗っているのが特長です。冬は湯豆腐、夏は冷奴になります。だし醤油と鰹節の風味は、それだけでビールが進みます。

 

好物のつくねから。焼鳥は2本で390円。看板である「かしわ」は親鳥を大ぶりに串打ちしたもの。味が濃厚で噛みごたえがある野性味ある味わい。かわって、ささみはあっさりとした味で独特な店の味付けが楽しめます。

せせりは親鳥と若鶏が選べ、この食べ比べもの楽しい。ももの一本焼きも常連さんに人気のメニューです。

 

焼台ごとを覆う金属の釜のような独特な焼き場で、直火に加え蒸し焼きのように火を通していきます。それだけでなく、塩とたっぷりの白胡椒で味付けをするのも特長です。

 

中まで均等に火が通りほくほくとした食感。胡椒の風味が力強い鶏の旨味を整えて、思わずうなずく美味しさです。

 

そんな焼鳥には昔から変わらずの嘉美心。酒燗器でじっくり熱を加えぬる燗程度になったところを大口の蛇目猪口へ。まろやかさが引き立ち、甘い香りと米の旨味が、鶏の余韻を心地よく流していきます。

 

「酒は三杯くらいが適量です」と書かれた短冊を眺めつつ、二杯目、そして三杯目。お隣のご近所に住むご隠居さんとも飲み屋話が盛り上がり、すっかりいい気分。

居心地のよさはお客さんの良さ。そしてよいお客さんが集まるのは店の女将さんやご主人のぴしっとした姿勢から。三代目が守る串の美味しさと、女将さんの絶妙な距離感に老舗ののれんを感じます。

 

お箸がなく串か爪楊枝で食べる一寸一杯が金平の飲み方。そのため回転がよくて、それだけ懐にも優しいです。長っ尻せずにささっと飲んで、ささっともう一軒。

「お気に召したらまた来てね」と見送られ、美味しく楽しいひと時をあとにします。

倉敷の老舗で地鶏と地酒で一献、おすすめです。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

金平
086-422-5350
岡山県倉敷市阿知3-1-9
17:00~21:00(日祝定休)
予算2,000円



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