「サッポロビール九州日田工場」 阿蘇・九重連山に囲まれた水郷でうまれるビール


九州の地における近代的なビール醸造は1912年(明治45年)に北九州・門司で設立した帝国麦酒株式会社から始まります。1913年(大正2年)には醸造設備が完成し、サクラビールの名で発売されます。その後の統合により、九州初の近代麦酒工場はサッポロビールとなり、2000年まで操業を続けていました。現在もサクラビールの商標はサッポロビールが所有しています。

>「門司赤煉瓦プレイス」 港町・門司の近代化遺産。九州初の麦酒醸造のロマンに浸る。(関連記事)

移転先は九州内で複数の候補地があり、最終的には大分西部の街「日田」に決まり、2000年3月から操業を開始。以後、九州内を中心に遠く韓国や台湾向けのビールを製造しています。

全国のビール工場巡り。今回は九州初のビール工場の系譜であるサッポロビール九州日田工場を取材します。

 

山と海に共存し、自然と文化が調和した九州の里。豊富な水が里を育ててきました。福岡県朝倉市には約220年も昔から稼働する日本最古の実働する国指定史跡「三連水車」があり、いまも里の田畑に山の水を供給し続けています。

 

今も昔も、山の恵である水は宝もの。阿蘇・くじゅう山系に囲まれ三隈川が中央を流れる水郷(すいきょう)の街・日田。豊富な水を使用して焼酎造りが盛んです。

 

ビールの原料で欠かすことのできない水。サッポロビール九州日田工場も日田の水に惹かれてこの地に工場を移転したそうです。

 

大分から日田へはJR久大本線の特急ゆふいんの森で1時間40分ほど。田川や久留米を結ぶ路線は熊本地震及び北部九州豪雨の影響で不通区間があり、復旧が待ち遠しいです。福岡からは高速バスも結んでいます。

 

日田駅からサッポロビール九州日田工場まではタクシーで10分ほどです。ビール工場は日田盆地の縁にあり山を登っていきます。

 

広大な工場には普通の道路も通り、そこのマンホールはなんとサッポロのオリジナルデザインです。全国のマンホールファンの方もぜひ(笑)

 

高原のリゾートホテルのような佇まい。ビヤリゾートの文字が輝く。工場見学のほかに日田森のビール園と物産館も併設され、観光名所のひとつになっています。

 

ロビーへ続く車寄せには同社の主力2商品のサッポロ黒ラベルとヱビスビールの巨大なモックが迎えています。

 

全国のサッポロビールの工場でもここだけ。サッポロ黒ラベルとヱビスビールで2つのツアーが用意されています。フロントから両ブランドに別れていて、どちらのコースにするか悩ましい。好きな方は両方観ても楽しめそうです。自由見学も内容は異なりますが可能です。

 

悩みつつもサッポロ黒ラベルを学ぶ「黒ラベルツアー」(参加費用:500円)を選択。黒ラベルツアーラウンジと呼ばれるウェイティングコーナーからスタートします。

 

テーマパークのようなシアターに通され、ここから黒ラベルの缶に書かれた”意味”を軸にプロジェクションマッピングを使用したムービーを鑑賞します。この星のない黒ラベルはいったい…

 

サッポロビールの歴史は近代化と開拓の歴史。

 

普段なにげなくみている缶に書かれた文字とは。

 

最後にはスペシャルゲストのあの人が登場し、乾杯の挨拶。意味を知り、乾杯の言葉も言われて、飲みたい気持ちをこれでもかとくすぐる内容です。

 

黒ラベルの名前は、「サッポロびん生」という名称だったころ、ラガービールのクリーム色と対比した黒いデザインということからファンが「黒ラベル」と愛称で呼び、それが1989年には正式名称となりました。

 

黒ラベルの進化を年代別に紹介して…

 

現在の姿に至ります。懐かしのラベルデザインもあって長く飲んでいる人は古い瓶をみるだけでもテンションアップ。ここまでがプレゼンテーションの流れ。

 

ここからさきはビール工場内の見学コースへと進んでいきます。

 

なお、工場内の見学コースでは撮影禁止です。一般の皆さんとは離れて、ここから先は特別に許可をいただき、引き続きご紹介を続けます。

 

サッポロビール九州日田工場はこのように高低差のある珍しい工場です。おいしい水を育む自然に感謝をし、高瀬地区をはじめ地元の皆さんといしょに環境保全に取り組んでいるとのこと。高瀬の森応援団というボランティア活動も盛んで桜や紅葉の枝打ちなども行っているそうです。

環境との共生を掲げ、2002年に県が推進した「企業参画の森づくり」第1号企業でもあります。

 

ビール工場ではお馴染みの仕込の設備。巨大な釜が並び、仕込、ろ過、煮沸、沈澱の工程ごとに筒が並びます。きめ細かな調整で、自然原料のものをいかに変わらない味にするか、醸造技術者はこの場に居なくとも遠隔で調整をおこないます。

 

ビールの原料は大麦とホップが有名ですが、もちろん水も大事。大瓶1本分をつくるのに必要とする水の量はなんと3~4Lもの水を使います。大麦は一握りほどの量だそうで、ビールの原料で一番多いのは水ということになります。九州日田工場では原料としてだけでなく洗浄などに使用する水も含めて100%を日田の名水のみでまかなっています。

いまはろ過技術も進化し、水系に依存せずに安定したビールが作れる時代ですが、それでも日田の水100%と聞くと、九州で黒ラベルやヱビスが飲みたくなります。

 

ジュース状になった麦汁は酵母といっしょに醸造タンクへ。ここで醸造がはじまります。タンクは直径9m、長さは電車1両分ほど巨大。これを模した空間に入り、改めてその大きさに驚かされます。

 

缶ビールにすると1,430,000本分。あなたは飲みきれますか?(笑)

 

北海道にある札幌麦酒博物館に初期のろ過器が保存されていますが、すぐにフィルターがつまって大変だったそうな。

1971年仙台、1980年静岡、1988年千葉、1989年北海道恵庭、そして2000年に操業を開始した九州日田工場。サッポロビールが建設したもっとも新しいビール工場です。

最新の設備でろ過スピードは毎時17万本分ものろ過が可能です。

 

お馴染みの瓶と缶のパッケージングライン。残念ながら取材時は稼働していませんでした。ほぼ100%オートメーション化されています。

 

ただし、検びんなどではセンサー系の他に、目視でのチェックが行われています。1分間に260本も流れる瓶をみる職人技です。

 

瓶は一度使用を開始すると約8年に渡りリターナブルで使用されます。大手4社ではキリンのみことなる瓶を使用し、3社は共通です。分別の手間がかからないよう返却時のビールケースには正しく入れたいですね。サッポロは赤いビールケース(P箱)です。

 

アルミ缶ばかりと思われがちの缶ビールの素材。実はスチール缶も存在し、混合して使用されています。昔のように一見してスチール缶とは気が付かないようになっているので、ときどきリサイクルの原料表示を確認されてみてはいかがでしょう。噂では、鉄鋼産業の街ではスチール缶率が高いとか。

 

樽詰めラインもメンテナンス中。ビールの樽かゆっくり回転して充填される光景は、酒場でビールに拘る人にはぜひ一度は見てほしい”源流”の光景です。

 

見学が終わればお待ちかねのテイスティングコーナー。出来たての黒ラベルがパーフェクトに冷えています。

 

泡は後乗せスタイル。横方向に抽出して生クリームのようなつるつるの泡を生み出します。

 

では、見学の皆さんといっしょに、乾杯!

 

毎日のように飲んでいる黒ラベルなのに、工場で飲む美味しさは格別のものがあります。

 

ビールを飲みながら、ここで家庭でもできる美味しい缶ビールの飲み方講座。缶で飲むよりもお店の味に近づくグラス飲み。それも特別な方法でよりビヤホールのあの味に近づけられます。

まずはぐんと高い所から注いでグラスの半分以上を泡でいっぱいにします。

 

少しずつ泡が落ち着いてきたら、二回目に泡の下へ潜り込ませるようにできるだけ空気に触れないように注ぎます。

 

すると最初の泡が蓋の役割をして、ビールは工場から詰めたのと同じような状態でグラスにはいります。

 

最後は泡を持ち上げるように3度目を注いでできあがり。ビール工場ではお馴染みの注ぎ方講座。

 

このテイスティングルームの開放感が心地よくて、それもまたビールをより美味しく感じさせてくれます。

 

窓の向こうは日田盆地と九州の山々。

 

テーブルに使用している木材は巨木をつかった大変立派なもの。林業が盛んな日田ならでは。

 

おみやげコーナーでは九州日田工場で製造されたビールはもちろん、ジョッキやグッズが販売されています。ヱビスグッズは東京渋谷区の恵比寿カーデンプレイスで購入可能ですが、サッポロ黒ラベルは実は貴重。

 

エントランスに戻ってきました。大きくぶら下がるスチームパンク的な装置は、門司の旧九州工場で使用されていた釜の一部。最新型の釜と比較しても形状は似ていますね。

 

足元には同じく旧工場の1911年頃につくられた床が記念として移設されています。工場の床なのにオシャレです。

 

せっかくなのでヱビスのツアーコースも覗いてみましょう

ヱビスビール記念館と同様に日本麦酒(のちに札幌麦酒と合併し現在のサッポロビールになる会社)の「ヱビス」の歴史が展示されています。

 

東京のサラリーマンたちの間で1920年頃にはビール党という言葉が埋まれ、その頃銀座などにはビールケースをこのように山ほど積んだ広告も登場し、庶民の飲み物として浸透していったそうです。

 

そして、ここの目玉はこれ。恵比寿ビヤホールが再現されています。ここはテーマパークかと思わせる本格的なものですが、これでもビール工場の中なのだからびっくり。

 

日本初のビヤホールはヱビスビールの直売所としてスタートし、その後はご存知の通り銀座ライオンへと続いていきます。

 

二階には楽しく飲む人の姿も。

 

内部も再現されています。スウィングカランと呼ばれる特別な注出器具。現在はバーを手前に倒すとビールがでるものが一般的ですが、昔はハンドル式。勢いよく流れ出すビールを上手に注ぐのは技が必要だったそう。現在でもごく一部でみられる方式です。

 

ああ、大ジョッキが飲みたい。併設されているビール園にいくか、一番近くの銀座ライオンは博多駅に直結した銀座ライオン KITTE博多店。このあと必ず飲もう。

 

内容が濃くてみどころいっぱいの九州日田工場。工場の周囲を囲む山々も手入れが行き届き清々しい雰囲気の施設です。

水郷日田は江戸時代には幕府直轄の天領として栄え、現在も温泉や賑わいのある商店街など名所は多数。一泊してめぐりたい街です。隣の由布とセットでビールと風土を楽しみに日田へ旅にでませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ 協力/九州旅客鉄道株式会社 取材協力/サッポロビール株式会社)

 

関連リンク:九州日田工場 | 工場見学とミュージアム | サッポロビール

サッポロビール九州日田工場
0973-25-1100※見学受付
大分県日田市大字高瀬6979
10:00~17:00
[休館日]
12~4月の毎週水曜日(祝日の場合は翌日)、
年末年始、臨時休館日



コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です


こちらの記事もどうぞ



«