たまプラーザ「さざえ」 新しい街、多摩田園都市にも酒場は必要です

たまプラーザ「さざえ」 新しい街、多摩田園都市にも酒場は必要です

2017年11月15日

東急田園都市線の開業は1966年。戦後、拡大を続ける東京圏のベッドタウンとして東急電鉄の主導で開発された多摩田園都市は、鉄道の開通前は典型的な日本の農村地帯でした。

たまプラーザも田園都市線の開業年に誕生した街です。「たまプラーザ」という独特な駅名は、田園都市開発の拠点的な存在にするための意味が込められ、「プラーザ」という不思議な響きも、そのインパクトを狙ったもだそう。

駅周辺は百貨店や複合施設が立ち並び、名前の通り中心地と成長しましたが、なにせニュータウンは歴史が短い。闇市の横丁も、労働者が集まる食堂も、地場に愛される昭和のアーケードもない。つまり、個人経営の大衆酒場の環境ではないということ。

そんなたまプラーザも、やっぱり人々が集まる場所には大衆酒場が必要だと言わんばかりに誕生したお店が「大衆酒場さざえ」です。縄暖簾にほっとする。

たまプラーザの駅前から想像もつかない、ド・大衆。マスターが板場を仕切り、カウンターの内側をお姉さんが切り盛りする。壁にはキンミヤのポスターで、ボトルキープが並んでいます。

年配の常連さんが多く、「俺がこの街に住みはじめたときは、電車は4両が30分間隔だったよ」なんて話をしてくれました。ここに住み始めた世代が街とともに年を重ね、自然と酒場が必要になったのではないか、そんな考察をしたくなります。

飲み物のイチオシはキンミヤ焼酎。ボトルを入れて、あとは割り材をお好きなものでどうぞというスタンス。生ビール(500円)、酒場らしく大びんも600円で揃います。

料理は300円から600円がほとんど。看板料理の肉豆腐は380円でスピードメニューなので、悩まず、まずこれを。

メンチ、ハムカツ、赤ウインナーと酒場の定番が並ぶほか、釣りが趣味のマスターが頻繁に釣りに出向き仕入れてくるスペシャルな刺身が人気。マスターの釣り仲間も集まり魚の話で盛り上がっていることもありますが、初めての人も魚好きならきっと楽しい。

お通しの小鉢と同じタイミングで、最初の生ビール。では乾杯。

カウンター席と厨房側には仕切りがなく、ここに座ると店内をぐるり見渡せ店と一体化した気分。ビールも自然と進みます。

すぐに登場、肉豆腐(380円)。きつね色に染まったシミシミの豆腐ととろっとした豚バラ。へなへなの玉ねぎも飲み欲をくすぐります。気持ち多めに一味をふりかけ頬張れば、うんうん、いいじゃない。

常連さんはマイ・キンミヤで飲んでいますが、コップ一杯では380円。これにプラス、割り材でハイサワーやホッピー、バイスなどをとって自分の好みで割って飲みます。

だいたい焼酎1、ハイサワー1で二杯分。自分で割るのって楽しいですよね。

マスターが釣ってきた魚はもうプロの域。鮮度のよさは魚好きの常連さんたちのお墨付き。3点盛りで900円、一人、二人ならまずは必ず頼みたい一皿です。

気がつけば、隣のお客さんをきっかけに常連さんと一期一会のトークがはじまり、たまプラーザの歴史、このへんの飲み屋事情などで盛り上がりました。釣りに誘われましたが、私、船酔いするんです…

リニューアルされ蘇った駅とその周辺。明るくきれいで美しい、東急のまちづくりの象徴のような佇まいですが、やはり人々の暮らしには大衆酒場は必要不可欠のようです。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

大衆酒場 さざえ
神奈川県横浜市青葉区美しが丘2-16-7
15:00~22:00(不定休)
予算2,500円