野方「秋元屋」 2004年は、やきとんが下町だけではなくなった年

野方「秋元屋」 2004年は、やきとんが下町だけではなくなった年

2017年9月18日

いささかキャッチーなタイトルを書かせていただきました。

やきとんといえば東京下町酒場を代表するようなツマミ。ウイスキーハイボールに似たうっすら琥珀色をした酎ハイとセットで、東京の経済成長を支えてきた元気のみなもとです。

下町にいけばどの駅前にも一軒や二軒、やきとん屋があるのは当たり前。それが不思議なもので東京の西側は実はかなり限定的な存在でした。そんな城西でやきとんの一大ブームがはじまるきっかけとなった酒場が2004に年中野区野方で創業の秋元屋です。

秋元さんが開いたお店だから秋元屋。酒場ブームの中で、秋元さんも最初は酒場ファンの一人でした。「自分もこんなお店をやってみたい」…そんな想いを具現化し、蕨のもつ焼屋で修行の後に開業されたというのは、有名な話です。

秋元さんのお店は看板料理のやきとんの美味しさはもちろん、スタッフの皆さんも人柄も人気のポイント。酒場ファンからの支持はもちろんのこと、秋元屋を愛してやまない秋元屋ファンも多く、いまや東京酒場の西側を話す上で欠かせない存在となりました。

鮮度抜群、一本120円とリーズナブル。秋元屋のやきとんはそれだけでなく、「味噌ダレ」の存在が大きいです。味噌をつけて食べるやきとんといえば、埼玉県東松山の「東松山やきとり」の食べ方であるピリ辛の唐辛子味噌を食べる直前に自分で塗って食べるものがありますが、それとはまったく別物。

液状になっているとろとろの味噌タレの壺に、一般的な甘いタレ同様に浸けて焼いていくものです。タレ以上に焦げやすく、しかも炭火を使用しています。味の調整も難しいと言われ、簡単には再現の難しい味。これが美味しくて、西武新宿線の各駅停車しか停まらない野方までも足を伸ばしたくなるのです。

ビールは創業時からずっとサッポロ。生ビールは黒ラベルで、瓶は赤星を置いています。着席と同時に「赤星ちょうだい」という符丁ではじめる常連さんも多く、秋元屋の一杯目といえばこのビールでしょう。

生ビール(中ジョッキ530円)の状態もよく、瓶の黒ラベル(大びん580円)もあり、もちろんホッピー(セット400円)や酎ハイ(400円)で始める人も多いですが、いつもの飲み物をさくっと注文する姿は皆さんかっこいい。

それでは乾杯!

秋元屋のメニューは次第に増えていまして、現在は串だけで30種類ほど。このほか、煮込みや自家製つくねなどやきとん屋の定番はもちろん、豚ではなく牛の”せんまい刺し”まで加わっています。とはいえ、小鉢系はマカロニサラダや山芋醤油漬けなど、あくまで串モノがメインであることに変わりはありません。

ポテトサラダも美味しいのですが、ここ最近はマカロニサラダを頼むことが多いです。ゆで卵をいっしょに和えているのがなんだか好きなんです。

サラダやおしんこなどを肴に、ちびちびと大びんを傾ける。

店裏の線路を行き交う列車の音や、お客さんやお店の方の会話も含めた”ガヤ”に包まれて、ワイワイとしているのになぜか騒がしくは感じず、自分の世界にぼーっと浸れます。

食べ物の注文は手元のメモ用紙で。1本から頼める串は、やっぱりカシラの味噌タレは外せません。カウンター席ならば目の前に焼き場があるので、自分の分だけでなく他の人のものも見ているだけで楽しくなってきます。

たかがやきとんと侮るなかれ。やっぱりこれを食べると、来てよかったと思うものです。

秋元屋で修行された方が独立して店を開くことも多く、秋元屋の流れを汲むやきとんやはその数20以上。2004年に野方ではじまった西側やきとんのニューウェーブ。その原点となった秋元屋へ、まだ飲みに行ったことがなければぜひともオススメしたいです。

お久しぶりの方も今宵あたり飲みにいきませんか。秋元屋、まだまだ進化中です。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見なゆ)

秋元屋
03-3338-6236
東京都中野区野方5-28-3
17:00~24:00(土祝は16:00~・休前日は23:00まで・月定休 ※月曜が祝日の場合は火が休み)
予算2,000円