大森「蔦八」 昭和の食文化を次の世代へ!復活の煮込みの銘店

大森「蔦八」 昭和の食文化を次の世代へ!復活の煮込みの銘店

2017年7月23日

大森の飲み屋というと、地獄谷こと山王小路飲食店街が有名ですが、この街は駅から全方向に下町ムードの飲み屋街がまんべんなく広がっています。歴史あるアーケードに店を構える老舗海鮮酒場などの定番や、最近は立ち飲みワインバルなども増加傾向で、幅広い層におすすめの飲み屋街です。

華やかな駅ビルから離れ、東海道線の線路に沿って100m離れた場所には、スナックや小料理屋が立ち並ぶどこか地方都市の風情が漂う一角があり、ここに1970年(昭和45年)創業の老舗「蔦八」も店を構えます。

「天下一うまい煮込み」とかかれた袖看板に赤ちょうちんと縄のれん。路地から店を覗けば素敵なコの字が見えている。飲み屋好きならばたまらない店構えです。

大きすぎず、小さすぎない。座ると心が安らぐような包まれた感じをうける店内。カウンターに座れば、どこの席からでも店員さんと会話ができる距離。「さて、何からいきましょうね」と自然にしゃべりたくなってきます。

ずらりと並ぶボトルキープのキンミヤ焼酎に、大衆酒場で愛されるサッポロラガー・愛称赤星の大びんが眩しい。

料理は壁にずらりと掲げられる短冊から選びます。看板料理は煮込み、ほかには刺身から揚げ物、焼魚まで酒場の定番が勢揃い。大森の酒場はくじら料理が多く、ここでも刺身と竜田揚げが定番に入っています。

今日のおすすめは、づけ鮪にかつお藁焼き、もずくに豚天です。共通性がなさそうで、それでいてこの並びは魅惑的。枝豆のお通し(250円)がついてきます。

ビールは店の看板の通りサッポロビール。生樽がヱビスで瓶が赤星。割り材は大田区のご当地ドリンクメーカーのコダマ飲料がつくるロングセラー「バイス」や、2015年夏よりホッピーが加わりました。

今日も喉が渇いているので、吸い込みのよい樽詰めヱビス(580円)で乾杯。磨かれた一枚板のカウンターにビールの黄金色が美しいコントラストです。

ただのタコブツではない、水ダコの活〆タコブツなんて書かれたら、頼まずにはいられません。醤油ではなく、わさびと塩でどうぞ。柔らかくみずみずしい、噛むと海の旨味がじゅっとしみだして、ビールや日本酒の進みを一層高てくれます。

名物は煮込み。創業から47年間継ぎ足しつづけて守られてきた伝統の味。コの字で煮込みがあるといえばもつ焼屋のイメージがあるかと思いますが、東京にはときどき、こういう大鍋の煮込み酒場が存在します。

蔦八の煮込みは平和島競艇で初代が売っていた頃が原点。鉄火場と煮込みは全国共通の仲ですね。

初代の頃から付き合いのある業者から仕入れる和牛のモツを使用。余分な脂がなく、脂の旨味だけでなくコクや深味で食べさせるもの。煮込みは680円で結構でてくるので、大鍋に浮かぶ豆腐だけを食べる煮豆腐(380円)もおすすめ。煮込み豆腐というと木綿のほうが染み込みが良さそう、なんて思うかもしれませんが、蔦八は絹。れんげで煮込みの汁と一緒にすくって頬張れば、これがほど良いあんばいなのです。

蛍光灯の光なのになんだか温かい。古い酒場にある、この現実と非現実の中間にいるような雰囲気に心地よさがあります。お客さんは古くからの常連さんのほか、最近は若い人も増え幅広い年齢層に愛されています。

バイスに赤ホッピーに天羽の梅と、東京の甲類系飲み物が似合う店。1,500円でキンミヤのボトルも入れられますので、数人で飲むならば一本いってしまうほうがお得です。

このほか、最近は日本酒の種類も増えて、結構珍しい銘柄やグルメ系雑誌の日本酒特集に載るような旬のお酒がこっそり隠れていたり。

勘定は昔ながらのプレートで。いくらのんだかお客さんもわかる明朗会計ですが、居心地がよくてついつい長居してしまい、結構飲みましたね、なんてことも。

ここ蔦八は、2015年に女将さんの高齢化などの理由から惜しまれつつも閉店。半年の準備期間を経て、料理やお酒の種類、運営体制などを変えて、同年9月に再スタートしたお店です。料理やお酒の種類は以前よりだいぶ増えていますが、基本の煮込み昔とほぼ一緒。女将さんが閉店中も守り続けていたそうです。

現在も女将さんが店に来ることもあり、昔からの常連さんも顔を出しています。体制は変われど古き良き部分はしっかり守られ、次の世代にバトンが渡されたかたちです。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

煮込 蔦八
03-3761-4310
東京都大田区大森北1-35-8
17:00~23:00(基本無休・日祝は22:00まで)
予算2,500円