五反野「居酒屋ガツン!」 ミシュラン夢見る焼鳥職人の研究施設&せんべろ酒場


せんべろという言葉が活字として登場し広く認知されたのは作家・中島らものせんべろ探偵が行く (集英社文庫)が最初でしょう。

筆者も「せんべろ」をテーマにした雑誌やテレビ番組の監修も仕事ですし、せんべろ名店酒場散歩 (DIA COLLECTION)という本にも作者として名前を入れてもらっています。

ですが、やはりせんべろの定義はあいまい。「安くても美味しく楽しめる」というものだけでなく、ただ安さだけを追い求めた業態が登場することに対しては言いたいこともあります。中島らもがせんべろ探偵を書いた翌年に死去してしまったことが悔やまれます。

せんべろ業態に興味を持つものの1人として、この話の原点となる「せんべろ探偵が行く」を基礎教科書として皆さんに読んでいただきたい。私の本よりもそっちが先。

などと、別の書物の宣伝をすると、そろそろ担当編集が不機嫌になりそうなので、お店紹介に入ります。

 

立地は関係ない、尖った業態は今の時代3等立地でも商売になる。そんなスタンスが感じられるせんべろ業態の風雲児「ガツン!」です。

五反野駅から徒歩10分。住宅街のバス通りをとぼとぼと歩くことでたどり着くなかなか渋い場所にあります。それでいて、日々お祭りのような賑わいなのだからすごい。

 

特長は、大きい括りでは「せんべろ」なのですが、そのシステムがお客さん同士を繋ぎエンタテインメント性を高めています。

安い安い、驚かされるのはキリン一番搾りが180円というところ。6月1日から酒税改定で値引き販売が是正されたアルコール商品であって、今のところ値上げの予定はないといいます。180円は、ほんの僅かに売価と原価の間に利益があります(一般的な仕入れ値で考えた場合)が、その利益も家賃や光熱費などを考えたら真っ赤っ赤。

 

1杯目も10杯目も180円。安心して飲める、そしてお通しなしで楽しめます。では乾杯。ビールの状態は激安酒場であっても問題ないレベル。ディスペンサーの清掃は、わずかな手間で嬉しい価値。

 

オーナーはもとは同じ足立区で人気の焼鳥を経営していた方。以前は小箱で数席の店を開いていましたが、人気で入れないお店として話題になり、店を広げるべく現在の場所に移転。その後、物件や人員でスッタモンダがあり、現在の不思議系せんべろ店になったのだといいます。

笑いながら明るく話すオーナーですが、その過去は山あり谷あり。

 

いまでも、オーナーの焼鳥屋時代を気に入っていた常連さんが通いますが、メニューには焼鳥はない。焼鳥どころか、メニューが雑多で、この品書きを見る限りでは決して人気店のオーラは感じられません。

 

実は現在のお店はメニュー開発の研究施設として、日々試食をつくるいわゆるテストキッチンとしての位置づけが大きいのだとオーナー。A4両面でラフなマジック書きで売り切れメニューが多いのも、テストキッチンの産物なのです。

数年後、ミシュランガイドに載るような焼き鳥店を目指し、現在のガツン!はその過程といいます。ビブグルマン好きの皆さん、新店情報は要チェックです。

心配される新店オープン後のガツン!ですが、誰かあとを継いでくれる人を探している最中とのこと。

 

ガツン!の魅力は、そんな夢のある大将のテスト料理や180円のビールだけではありません。ここが人気の秘訣は、300円の「おすそ分け」制度です。

300円を支払うとドリンク類はすべて持ち込み自由。缶ビールでも、焼酎、ワイン、ウィスキーなどアルコールはもちろんのこと、三ツ矢サイダー、小岩井牛乳、リボンシトロンだってよし。

家にお酒が余っていたら、自宅で飲まずにみんなで持ち寄って、低予算で宅飲みを外飲みにシフトできるのです。

 

割り材も持ち込み自由。ポッカサッポロの割り材を持ち込んで、美味しいシークワーサー割りをつくったり、常連さんは牛乳とカルーアを合わせるなど、ありとあらゆる可能性を楽しまれていました。

ここはまるで、飲料メーカーの会社の枠をこえたテストキッチンです(笑)

 

また、他のお客さんが持ち込んでおすそ分けで置いていったアルコール類も同じく飲むことができます。お店はあまり儲からなさそうなので、ぜひ料理で利益貢献しておきたい。

 

キリンのオーシャンラッキーを使用したラッキーハイボールも180円。皆さんがおすそ分けで持ち込んでいるウィスキーが立派すぎるので、なんとなくお店にある定番の居酒屋ウィスキーがホッとしたりします。

 

どの料理が美味しい、と紹介しても次々メニューが改定されるのであまり意味がないので割愛。でも、料理上手なのは間違いありません。

 

180円のビール、お通しなしで何が加わるかわからないメニューたち、前代未聞のおすそ分けシステムなど、個性が強いお店ですが、なにより個性が強いのは仕組みを考えたオーナーのしょーじさんです。

漫才師タイプではなく、インテリ的な口調で淡々と喋る中にも、人をひきつけて通いたいと思わせる魅力を持った不思議な方。将来の焼鳥屋もきっと繁盛されることでしょう。年中無休の店ですが、オーナー1人で切り盛りされています。

 

持ち寄ったお酒をその日居合わせた人とシェアすれば、盛り上がること間違いない。一人できても寂しくない、一体感とお財布に優しい値段設定が魅力の居酒屋「ガツン!」を一度覗いてみてはいかがでしょう。

過度に期待せず、ゆるい気持ちでなんとなくふらりと立ち寄るくらいが丁度いいですよ。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

居酒屋 ガツン居酒屋 ガツン
03-5845-5432
東京都足立区足立4-16-15メゾン朋泉 五反野102
17:00~0:00 (LO 23:30・年中無休)
予算1,000円



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