折尾「高橋酒店」 100年角打ちへようこそ!酒と人が織りなす魅惑の世界


酒屋の片隅で飲むことを、飲食店と呼び分ける意味として「角打ち」という言葉が定番化していますが、”角打ち”は東京や大阪で生まれた言葉ではありません。

東京では、「立ち飲み」や、古くは「もっきり」と呼ばれていました。対する角打ちは北九州発祥の言葉です。ではなぜ、角打ちが全国区になったのでしょうか。独自研究の域を超えないものとして筆者の意見を述べますと、東京や大阪の角打ちは、近代化の中で粋でないものとして大衆離れがあったのではないかと。また、戦後の混乱期に酒屋と飲食店の境界が曖昧になった際に、行政主導のもと、料理を提供する「角打ち」を是正する、という政策(横浜市では市民酒場の誕生と絡みます)も関係するのではないでしょうか。

 

さて、そんな大都市の酒屋の立ち飲み色が薄まる中、強く輝き人々の日常に強く根付き続けていたのが、鉱山・鉄鋼・重工業の街・北九州。酒屋の立ち飲みに注目が集まりだしたときに、角打ちという言葉が九州でインパクトを持っていたのが、現在の全国的な「角打ち」に通じているのではないでしょうか。

 

北九州の角打ちを語る上で、折尾の「高橋商店」は外せない存在。いまから約100年前、大正7年創業の北九州を代表する角打ち酒屋です。

 

JR折尾駅から堀川沿いを南に進むと、高橋商店が見えてきます。夕方ともなると店先まで人で溢れ、まるでお祭りのような雰囲気に染まりますが、これでも今日は平日です。

1918年創業、その当時からの建物を使用し、現在は4代目とその家族が暖簾を守ります。堀川は昔は鉱山からの物流河川として賑わい、鉄道に輸送の主力が移ったあとも、折尾は鹿児島本線と筑豊本線が交差する要でした。

 

九州の炭鉱と鉄鋼、それを運ぶ鉄道マンで賑わう折尾で、戦前から「高橋商店」はお疲れさまの”現場だったのだそう。

 

現在使用されている建物は創業当時のもので築およそ100年。店の前を流れる堀川のせせらぎと、飲みに集う老若男女のゆるい雰囲気からは、そんな月日は感じられません。

 

ビールは大手3社と新ジャンルなどを加え4社が顔を揃えます。福岡の地酒「国の寿」や九州の焼酎も並びます。

 

ビール・酎ハイなどいろいろあるなかで、今日の気分で乾杯。夕暮れの少し落ち着いてきた日差しのなかで、地元のお父さんたちの安らぎとともに優しい時間が流れます。

 

店内は現行・退役を含めてまるで酒博物館のような顔ぶれです。店の看板にもなっている国の寿を製造する目野酒造は、2016年に経営難で一度閉鎖されましたが今年になって復活。2月から醸造を開始し、心機一転の新国の寿が並びます。地元の人にとっては故郷の思い出の味だけに、常連さんの中には復活を喜ぶ声もありました。

 

そんな様々なお酒がある中で4代目に伺った人気の商品は、意外にもサッポロラガー。新ジャンルなどローコスト飲酒があるなかで赤星が人気なのは興味深い。

「門司に桜麦酒があり閉鎖まで赤星を作っていた、当時からのファン」と話す常連さんもいらっしゃいます。サッポロビール九州工場が大分県に移転されて20年が近づく中、土地への根付きはいまだ色あせないようです。

 

大正時代から改築・修繕に努めてきた建物は天井が高く立派なつくり。再開発計画が進む中、なんとしてもこの建物と店を守りたいと話す四代目が印象的でした。

店の随所に北九州の飲酒文化の歴史が色っぽく残ります。

 

「普通、酒屋の床は板でしょう?ここの床は100年変わらずレンガなんですよ。」

堀川沿いにあるお店なので、昔はよく氾濫していたのだそう。撥水や建物の寿命を考えレンガ張りにした当時の棟梁の考えのおかげで、100年もの間、川沿いの酒屋は守られてきました。

 

学校で使うような机とテーブルを使って店先で飲む常連さん。夕暮れの日差しの中、一日の疲れを癒やす姿はまさしく天国です。店の人がたつカウンターで、お酒とおつまみをキャッシュオンで支払えば、あとは思い思いの場所で過ごしていい。料理も焼鳥やソーセージなど本格的です。

 

100年分のお客さんの笑顔と、造り手・売り手の想いが濃縮、醸されているような建物は人間色に染まっています。

 

なにもかもが懐かしく、そして珍しい。各社の広報でもここまで保管していないというようなノベルティーで溢れた店内は、楽園としか言いようがない。

 

古いアサヒビールの看板も、大切に守られています。

 

川沿いに佇む高橋商店は、なんとも例えがたい天国的なムードがありました。瓶ビールと焼鳥を購入し、一人でのんびり過ごすもよし、友人と語り合うもよし、お酒を飲むはみんな友達といった感じで、初めての人も常連さんも、同じ輪の中で過ごせる素敵な空間です。

福岡県に訪れた際は、小倉・博多からもJRで一時間かからず立ち寄れる折尾へ、角を打ちに来てみませんか。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

高橋酒店
093-602-1818
福岡県北九州市八幡西区堀川町2-10
9:00~21:00(日祝は19:00まで・無休)
予算1,000円



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