東松山「大松屋」 創業60年、やきとりの辛味噌はここから始まった


池袋から東武東上線の急行で55分。川越を過ぎると、住宅が途切れることなく続いてきた車窓にも緑が現れ、遠くまで来たなと感じます。私鉄で1本だから、なんとなく東京のベッドタウンと思いますが、あと少しで熊谷や小川町だと知ると、ずいぶん遠くまで来たものだと思います。

今回、東松山に来た目的はただひとつ。ここは関東を代表する「やきとり」の街なのです。

日本各地には、室蘭やきとりや今治焼鳥など、街の歴史に裏付けられた郷土料理としての焼鳥があり、ここ東松山を含めて3大焼鳥と呼ばれています。

さらに、炭鉱から生まれた美唄焼鳥、人口あたりの焼鳥屋の軒数最多の久留米、長門、福島を含めて7大焼鳥というものもあります。東京生まれで、毎日のように中央線沿線のもつ焼き・焼鳥を食べて育ってきた筆者としては、東京が含まれていないのはいまだに納得していません(笑)

 

焼鳥を食べるだけに東上線を下るというのは、ノンベエでなければ不思議な話でしょう。それでも、この街で食べたい理由があるのです。東松山駅は西洋風のオシャレな橋上駅舎ですが、駅前からすでに焼鳥が匂います。

日本で唯一、近隣の焼鳥店だけでつくるやきとり組合「東松山焼鳥組合」があるといえば驚きますか。とにかく焼鳥店が多く、居酒屋の二軒に一軒は串を焼いています。大げさじゃなくて。

 

その中でも、原点と言われている焼鳥屋が駅から少し離れた場所にある「大松屋」です。店の数が多いのでどこに入るか毎度悩むのですが、Syupoではやり発祥の暖簾からはじめたい。

 

いまから60年前、戦後の混乱がまだ収まらない頃に朝鮮出身の初代がはじめた酒場です。

 

焼鳥といっても、鶏ではなく豚モツを使った串の専門店です。より正確に言うならば、やきとんの中でも「かしら」に重点を置いているというほうが正解です。

 

炭鉱街の低価格ながら栄養価が高く明日への活力になるということから「焼鳥」が郷土料理になった地域と違い、東松山は養豚・食肉センターがあったことがきっかけとなったと言われています。

安価かつ安定して豚モツが仕入れられる、戦後の東京を食で支えた東松山ならではの物語です。

 

大女将は御年85歳、焼き番は娘さんが守ります。ここは店の方が全員女性で、硬派な焼鳥酒場のカウンターでありながらどこかやわらかさがあり、初めての人は緊張して座るも、帰るときにはまるで親戚の家から帰るような温和な表情になるのです。

 

クッションがかわいい昭和の丸椅子に腰掛けて、焼台の前へ。ビールは昔からずっとキリン。東松山の焼鳥の歴史にキリンラガーが常に寄り添ってきてたそうな。乾杯!

受け皿はと味噌が用意され、準備完了。

 

料理は注文せずともカシラが最初に2本、1本、また1本とわんこそばの要領で手元に届けられます。もういいです、と言わなくとも、そのくらいになればお店の人とも打ち解けていて、「コレくらいにしておく?」というのが会話の中に入ってきます。

注文せずとも出てくるというと無機質に感じるかもしれませんが、その正反対で実に人間味を感じるスタイルです。

辛味噌をヘラでべっとり塗って食べるのが東松山流。この味噌は今でこそ東京の東松山と関係のない焼鳥屋でも当たり前に見られるスタイルですが、実は東松山発祥。もっといえば、ここ大松屋の初代が考案した食べ方です。

 

生まれ故郷の味を思い浮かべながら、この肉肉しいモツをいかに食べやすくするかを考え、コチュジャンをヒントにしたそうです。当初は、韓国味噌と同じようにサラっとしていたのが、時代の変化とともに、食べているときに服へ飛び散らないよう粘度のあるものへと調整してきたと女将さん。

積極的に辛味噌を東松山の同業に広めたそうで、言うならば全国のやきとり辛味噌の母です。

カシラ以外にも、レバー、ハツ、タン、Pシロの4種類もあり、カシラの合間にお願いすると焼いてくれます。どれでも1本から頼めて120円。

 

もっちりとしていて肉汁が口の中いっぱいに広がる濃厚な焼鳥。ここに辛味噌をつけて味を整えて食べるのだから、とにかくお酒が進みます。そして、いっぱい食べてくると口の中をリフレッシュしたくなる。間にトマトを挟めば、また1本とカシラが食べたく鳴るのが不思議です。

 

ビールは大びん650円でキリンラガー、生ビールもラガー樽を用意していて、ガツンとくる苦味とカシラの相性のよさをただただ感じられます。途中からレモンハイに行く常連さんも多く、私もトマトと同じ意味合いでレモンハイで整えつつ、飲み進めていきます。

 

会社帰りのサラリーマンで賑わう店内、カウンターにずらりと並ぶ人たちと、それを迎え撃つカシラの煙で熱気のある店内。そんな中に、女性のお一人様やグループも混ざっていてるのは、やはり女将さんの優しさがあるからでしょう。

駅から少し離れていますが、はじめての東松山は原点からハシゴを登るのがよろしいかと。

ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

大松屋
0493-22-2407
埼玉県東松山市材木町23-14
16:15~20:00(日定休)
予算1,800円



“東松山「大松屋」 創業60年、やきとりの辛味噌はここから始まった” への1件のコメント

  1. June より:

    久しぶりに、コメントさせて、いただきます。

    我が東上沿線に、ようこそ!

    そうなんですよ。こっちでは、「焼き鳥=焼きとん」なので、都内の、お上品な焼き鳥屋さんで、レバーを頼んで、豚レバーでなく、鶏レバーが出てきますと、かなり戸惑いますf(^_^;
    それから、味噌だれが、テーブルに置いてないと、焼き鳥屋さんに入った感じがしません( ̄▽ ̄;)
    それだけ、地元民にとっては、ソウルフードなんですね!

    で、味噌だれを付けるにも、ルールがあるんですよ。
    刷毛(またはヘラなど)で、やきとりに直に付けます!
    モノは違いますが、串カツの、ソースの二度づけ禁止と同じく、やきとりを口に運ぶ前に、好みの量を。
    お皿の上に、味噌だれを付ける(のせる)のは、やりません。
    お店によっちゃぁ、怒られます(-_-;)
    (以前、友達が、皿の上に味噌だれを付けて、そんなコトがありました…。)

    ちなみに、我が家の冷蔵庫には、地元のやきとり屋さんから、定期的に分けて頂いた味噌だれが、常備されておりますf(^_^;

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