桜木町「市民酒場常盤木」街は変われど酒場は変わらず、横浜を紡ぐ銘店


市民酒場という言葉を耳にしたことはありますか。

戦中・戦後の混乱期において、統制のとれた飲食と酒類の提供をするために設けられた横浜市特有の居酒屋制度によって誕生したもので、その歴史は長いです。戦後、まだ日々の食事にも苦労していた時代、市民酒場の店主たちは各地を駆け巡り僅かに仕入れた食材やお酒を使って、汗水垂らして復興に務める労働者の「飲み場」を守り続けました。

闇市の酒場は、その名の通りヤミの飯と酒ですが、市民酒場は行政が関与する制度で管理されたもので、闇市の反対に位置する存在なんです。

現在も30店舗ほどが残っており、歴史の長さや「労働者の店」としての手頃な価格とボリュームから人気の店ばかりです。

桜木町駅、横浜駅、戸部駅からも10分ほど離れた岩亀(がんき)横丁にも、「市民酒場」の暖簾を70年以上掲げる銘店があります。

 

岩亀横丁は、野毛とも戸部とも独立した場所にあります。ここに飲み屋街ができた要素は港湾都市・横浜の歴史と深い関係があります。横浜ランドマークタワーや大観覧車が立ち並ぶ現代横浜の顔とも言えるみなとみらい21地区は、昭和の中頃まで三菱重工の造船所でした。山下公園に係留保存されている氷川丸もここの生まれです。

そんな横浜ドックの正面に位置する場所にあったのが岩亀横丁であり、市民酒場常盤木です。

 

1924年(大正13年)、関東大震災の翌年にこの地で酒屋を始めた常盤木。その後、情勢の変化にあわせて酒小売から酒場へと姿をかえ、1941年酒場となります。横浜市内各地にあります市民酒場は、このように元は酒販店でした。

市民酒場は働く人々の毎日の飲み処として愛され、同じく横浜発祥のキリンビールとも手を取り合いながら酒場文化を形成してきました。

 

横浜を紡いできた市民酒場は、歴史や店が醸す味わいまでもが肴です。白い暖簾に達筆な「常盤木」の文字。暖簾をくぐるだけでも嬉しくなります。

 

カウンターとテーブル席、小上がりという造りで、昭和30年頃から変わらない配置。ドックで働く男たちは、街の歩みとともに居なくなりましたが、いまは近隣のご隠居や市民酒場の味わいを求める人々で賑わいます。

 

2017年は4月25日に発売の「一番搾り横浜づくり」。限定醸造なので、時期によっては取扱はありませんが、市民酒場と麒麟の70年以上にわたる関係も背景に、ますます美味しく感じられるビールなので、一杯目はビールで乾杯したい。

浜風を感じながら飲むビールがコンセプトのひとつにあり、軽やかな味わいがありつつ、それでいて度数6%としっかりした厚みも感じられます。これぞ麒麟味。

 

一枚板の立派なカウンターは、半世紀をこえて使い込まれ、木の年輪以上に人々の息遣いまでもが塗り重なっているように感じるほど。みんなが使い続けたことによって、縁が丸まっているのも素敵です。

お通しはわかめの酢の物。夜になっても穏やかに暖かい今の季節にぴったり。

 

市民酒場の多くは、市民酒場制度廃止後にふぐの免許を取得し、だれもが食べられる大衆ふぐ料理屋を目指したと聞きますが、現在もふぐを扱う店は少ない。そんな中でも、常盤木では冬場はふぐ鍋をだすなど、いまも往時の姿を守っています。

1950年生まれの3代目ご主人、荻原哲郎さんが常盤木を継ぐ以前に中華の道で修行していたことから、ピータンなどの中華料理を置きつつも、酒場の基本・安くて鮮度のよい海鮮の肴も並んでいます。

中華と刺身が並ぶ、いかにもハマの酒場らしい。

 

まだ小ぶりだけど、初物の春ホヤは甘くて美味しい。そんな話をご主人と話しながら、ビールが進みます。

 

自家製の焼売は、時間をかけてじっくりと蒸し上げているもの。肉と玉ねぎがたっぷり入り、肉汁は皮に染み込まれ、全体がしっとりと美味しい。

 

僅かな醤油にカラシをたっぷり、軽くつけて食べれば抜群に美味しい。すかさずビールや酎ハイを口に運び、お酒と肴の素敵な関係が広がります。焼売と日本酒をあわせる常連さんもいるそうで、それもまた美味しそう。

 

ボリューム満点のねぎチャーシュー。もちろん自家製です。辛めの味付けのネギと、本格中華の独特な甘みがあるチャーシューの組み合わせ。美味しいのですが、量が多いので二人で1つくらいがおすすめ。200円台の穴子天も、20cmを超えるほどの大きさだったりと、安くて美味しく満腹になってもらうという市民酒場のポリシーが守られているような感じます。

 

現在のビールディスペンサーといえば、ニットクとホシザキですが、こちらにあるのは三洋電機製の樽冷式です。近くに三洋電機があったことから、そんなお付き合いもあって入れたものだそうです。昔ながらの樽冷式は、瞬冷式と違う優しさが感じられるように思います。

 

酎ハイグラスも珍しい。相生ユニビオ株式会社という愛知県にある味醂を主力とした企業が作る酎ハイで、まずもってこのグラスは見かけません。

甘めの味付けの酎ハイで、ジュース感覚でくいっと飲めるのですが、しっかり酔うのでご注意を。

 

ご主人はお酒が飲めないそうですが、お酒選びへの想いがしっかりしています。料理主体に考えお酒はただの”商品”としている店のお酒は、むときにも何も感じませんが、心のこもったお酒は感じるものがあります。

荻原家の家系は山梨に由来するとのことで、日本酒は同郷のお酒、大月市笹子町・笹一酒造の笹一。

 

横浜市民酒場連合会は、現在は解散しているものの、そのポリシーは今も横浜の街に生き続けています。

歴史があるお店ですが、店主や女将さんもとても親切でお話好きの方。アットホームで初めての人も緊張することなく、きっと心地よく楽しめます。

横浜に乾杯しませんか。ごちそうさま。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

市民酒場常盤木
045-231-8745
横浜市西区戸部町5-179
17:00~22:00(土日祝定休)
予算2,000円



“桜木町「市民酒場常盤木」街は変われど酒場は変わらず、横浜を紡ぐ銘店” への1件のコメント

  1. おのっち♪ より:

    平日の17時から22時とはハードル高い(/。\)

    市民の為の酒場だから…

    昭和の空気漂う空間がいいですね(≧∇≦)

    東東京から機会が有れば、是非m(__)m

    プロ、ありがとうございました(^^ゞ

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