岡山「喜楽鮨」 戦後復興から現在へ、平和町の老舗寿司店

岡山「喜楽鮨」 戦後復興から現在へ、平和町の老舗寿司店

2017年4月3日

岡山は大戦中の1945年6月29日、138機の爆撃機によって焼夷弾による空襲を受け、市街の6割が焦土と化し、1,700人以上が犠牲になりました。それから4年後、平和町と名付けられることになる地に、戦後の混乱がまだ収まらぬ中一軒の鮨屋が誕生しました。

一人の寿司職人が衣食住もままならない中、まだ食材の調達も困難な時代でありながらも、瀬戸内の海の幸をつかった伝統のばら寿司を看板に掲げる店「喜楽鮨」を始めます。平和の町に”喜楽”とい暖簾は、復興の強い想いを今に伝えているようです。

岡山駅は最近リニューアルされてますます活気づいています。岡山駅前の桃太郎像も誇らしげ。

対象的な雰囲気の岡山駅前商店街。大型ショッピングモールが次々と誕生しだいぶ寂しくなりました。岡山城や岡山後楽園などのメジャーな観光地だけでなく、市街を徒歩や岡電(路面電車)でゆっくり街歩きするのもおすすめです。

喜楽鮨は西川の川端。この界隈は闇市同然のころからはじめた古いお店が多かったと聞きますが、いまはマンションのほうが多くなりました。そんな中にありながら、どっしりと構える喜楽鮨は味わい深い存在です。

L字カウンターの店内にはニ代目の姿が。親から受け継いだ店を三代目に繋いでいくと笑顔で話す店主は、会話上手でカウンターの鮨屋にぴったりの雰囲気の方です。

ビールは岡山に工場もあるアサヒを置いていますが、店主のお酒から始めるかい?という言葉に誘われて、岡山は倉敷市児島下の酒「三冠」を。三冠酒造は1806年から続く歴史ある造り酒屋ですが、戦争の統制によって製造ができずにいたところ、ここ喜楽鮨とほぼ同時期に醸造を再開できたという、戦後復興繋がりの酒でもあります。

地元のお酒の中から、少しだけ個性的ながら鮨との相性のよい主張しすぎない銘柄を揃えたラインナップが楽しめます。きゅっと一杯いい気分。乾杯。

岡山といえばママカリなど海の魚が有名ですが、川魚では「はえ」(オイカワ)と呼ばれる小魚や鮎、もろこなども食卓に上がります。ままかりの甘露煮など、強く甘辛に仕上げたつまみは、地元のお酒の肴に言うまでもなくぴったりです。

岡山の鮨といえば、岡山ばらずし1,620円。伝統の味を残す岡山流の鮨屋である「喜楽鮨」の看板料理のひとつです。特長はなんといっても瀬戸内の魚です。

すべて岡山の日生や黒崎、下津井などからとれた食材で揃えられています。海水の温度があがったことによって、50年前と比べて瀬戸内の魚も種類やそのものの大きさも変わってしまったと話す大将。それでも地のものにこだわりたいと、ママカリやシャコはもちろん、昔の変わらぬ具材が揃います。

三代目はすし組合の機関紙の表紙を飾ったこともある方で、いま注目の担い手です。岡山のばら寿司を絶やすことなく、土地の味をいつまでも守ってください。

川のせせらぎを聞きながら、カウンター8席の小さな鮨屋でのんびり地元の話を聞きながら飲むお酒はよいものです。中休みのあと夜も営業しますので、岡山で寿司で飲みたくなったときにはぜひ暖簾をくぐってみてはいかがでしょう。

サワラやばってら、瀬戸内の握り寿司も手頃な価格で楽しめます。気軽に食べられる街の寿司屋ですが、その背景や店主の笑顔まで含めて魅力いっぱいです。

ごちそうさま。

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

店名喜楽
住所岡山県岡山市北区平和町6-1
営業時間営業時間
<昼営業>
12:00~14:00
<夜営業>
17:00~22:00
定休日
日曜・祝日(年末▪年始は営業)
開業時期1949年